陰の共感〜読書のすすめ〜

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もうすぐ読書の秋は終わってしまいますが、今回は「共感」を軸にデザイン思考の皆様にオススメしたい小説を1作紹介させていただきます。※抽象的なネタバレを含みます

『何者』朝井リョウ/著

商品やサービスを認知させたり興味を持ってもらいたい時、往々にしてまずはターゲットへの「共感」の姿勢を大事にしますよね。それも多くは、「これいいよね、わかるぅ!」と大声で共有してもらいたい表現を目指すと思います。

本書でも他者への「こんな人いるいる」といった共感要素が多用されていて、ここが引き込まれるポイントなのですが、この共感は先述のものではなく「陰った共感」なのがポイントです。

舞台は現代日本。主人公は就活を始めた大学生。就活の場、SNSの場では日々本音と建前が飛び交っていて、人には言えないけど、「こんな人いるよね。…自分は違うけど」と他者を蔑んだり、自分は達観していると思う瞬間。そんな、誰にでもあるけど表では出せない感情に共感させられることで普段人と共有できない裏面を握られてしまうのです。

この小説が面白いのは、終盤で「傍観者として俯瞰しているつもりのあなた(主人公であり読者自身)も、実は他人からはステレオタイプに見られていて、時には蔑まれていた対象である」ということを突きつけられる瞬間です。 この裏切りは是非、実際に本を手に取って体感していただきたいです。

陰った共感と裏切り。この2段階構成で私もまんまと術中にハマり、読後は面白かったと思ってしまったのですが、 このやり口、広告表現で使えたりしないかなと画策しています。(反感を買いそうなので提案したことはありません)

本書は直木賞を受賞しており映画化や舞台化もされている人気作ですが、上記の楽しみ方は小説という作者と読者が1対1となる表現だからこそ一入かと思います。是非あなたも陰の共感者になってください。

新潮社『何者』書籍詳細ページより(https://www.shinchosha.co.jp/book/126931/)